「鉄学」概論

「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

「鉄学」概論―車窓から眺める日本近現代史 (新潮文庫)

僕は「てっちゃん」ではないが、「鉄学」という言葉に惹かれるように本書を手に取った。鉄道関係の本と言われれば、自分の中では文句無しで内田百輭の『阿房列車』シリーズだ。と、思ったら、本書の至る所でも引用されている。
有名な一節「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」も当然のように引用されている。『阿房列車』では、この一節を読んで一気に虜になってしまった。

本書は、鉄道を愛した文学の巨人、鉄道に乗る天皇、私鉄沿線の歴史など、鉄道を媒介に時代を俯瞰している本だ。特に興味があったのは、第3章の「鉄道に乗る天皇」。明治、大正、昭和前期という時代、全国の鉄道に最もよく乗った人物の一人として、天皇がいるという。天皇、皇太子の全国レベルでの行幸啓は国家的戦略に基づき、彼らの姿を視覚的に意識させることを通して、人々に「臣民」であることを実感させていたようだ。

内容もさることながら、豊富な写真と地図も読み手を引きつける作りになっており、鉄道に関して詳しくない人でも楽しんで読める本。